DA BLACK HOLE SUPER TECHNIC 奥義大全

The Melancholy of Tele-marketing center

作者・山崎はるか氏について)より続き


 私の所属する部署は、コールセンターを担当していました。
コールセンターは、
 ・ユーザーサポートやチケットセンターのような かかってくるのを受ける業務 (インバウンド)

・ テレマーケティング、つまり「こちらから電話をかける」テレアポのような攻めの営業。
これを業界用語で「アウトバウンド業務」といいますが、このふたつの仕事があります。

 アウトバウンドには、番号リスト・対象地域・対象業種を指定して依頼する場合と、RDD(ランダムデジットダイヤリング)で無作為対象にかけてもらう場合とがあります。

 いずれの場合も、お客様(になってほしい人)に電話をかける前に、
「ナンバークリーニング」といって「対象の電話番号リストの有効性」を事前に検証します。
有効性とは、その番号にかけて・人がでてくれる 可能性のことを言います。

 たとえば03-xxxx-0000~9999までの1万件の間に、有効な番号が100件ほどしかなく、残りすべてが「現在使われておりません」ということがあります。
これは、コールセンターの運営上、大きな支障をきたします。
100回かけて、やっと1回つながる・・・・という具合では、オペレーターは1日に10件しかしゃべれないことになるからです。オペレータは時給で雇われているのですから、これではコールセンターは大赤字です。

 そのために、事前に、ナンバークリーニングを行い、有効な番号だけを抽出してリスト化する必要があるのです。
 


 この作業に、当時、当社は それぞれの現場で、
・A社の「*ACS」
・B社の「*ルフィン21」
をナンバークリーニング装置に使用していました。
 両方とも動作は微妙に異なりますが、中核の原理であるISDNの不完了呼を用いて有効性を検証する方式で一致していました。
どちらも 1セット あたりの年間保守費用は60万円~65万円。

 ISDNのナンバークリーニングについてはA社が当時としては有力な特許を持っていましたが、B社の*ルフィン21は、A社の特許(請求項)とは検査処理(シーケンス)に部分的な違いがあるため、コンプライアンス上は問題なく利用が続けられる状態でした。

 しかしB社は、販売・サポートが別会社に移り、将来の品質管理体制に不確定要因がありました。
またA社も、初期製品の逐次ダイヤル検査はフラッグシップ商品ではなくなり、あらかじめ番号を総検索して蓄積しておくASPサービスに主力を移行しているところでした。こちらは速くて便利な反面、データの鮮度に不安が残りました。

そして、A社もB社も「ダイヤルインとiナンバーの切り分け」が出来ないという問題がありました。これは両社製品とも解決不能でした。


 そこで、自社内でナンバークリーニングを行う方法が模索されることになりました。
それを担当したのも私の部署でした。

そのミーティングの席上、A・B両社の仕様書を見ていた情報システム担当者から、
『この原理なら、ブラックホールを使えばいいじゃないか?』
という意見があり、はじめてその名前が出ました。

 ‘ブラックホールとはなんだ?’
と問われ、その場でネット検索してプロジェクターに映し出しました。

商品説明→会社案内→会社代表者紹介が映し出された瞬間、一斉に驚きの声がでました。
「山崎氏じゃないか!」
と。
すぐに来てもらえ!と、さっそく、親会社(といっても同じビルの別の階ですが)に内線をかけ、取り次いでもらったところ、今は別のプロジェクトに移っているので、すぐには所在がわからないとの返答でした。しかたなく、会議はそこで一旦、休憩となりました。

 そして、一同が休憩フロアに向かったところ・・・なんという偶然かそこに山崎氏がいるではありませんか!
(同じグループ会社のネットゲームのプロジェクトチームの方と歓談しておられました)
誰が声をかけるのよ!と、ひと悶着あったあと、結局私が声をかけ、続いて10人ぐらいで名刺交換となり、突然のことに山崎氏はずいぶんと戸惑われておられました。


 山崎氏に、会議室にお越しいただき、DAブラックホールのかんたんなレクチャーを行っていただきました。
また「残りは実物をみていただきましょう」と、山崎氏の「はるか部隊室」(ご本人はタコ部屋とおっしゃられています)に、DAブラックホールをインストールした本体があって、その部屋で、実際にナンバークリーニングの実演も行っていただきました。

 検討は2日間にかけて行われ、その間、当社でDAブラックホールをすでに使っている部署があることもわかり、ヒアリングも行いました。
その結果、基本性能が、我々の要求する仕様を満たしており、加えて 多少の改良により、ダイヤルインとiナンバーの切り分けも可能なこと・その切り分けについてはすでに山崎氏が特許申請を終えていることも明らかにされました。
また、検討会議に同席していた弁理士の見解として、DAブラックホール方式は他社のどこの知財も侵害しておらず、直ちに特許取得可能との判断も出されました。
いっそ、うちでナンバークリーニングの会社を立ち上げてはどうかという話まで飛び出たほどです。
こんなあんばいですから、会議はDAブラックホールの採用に殆ど決していました。


 ところが、肝心の山崎氏が、DAブラックホールの採用に「反対」されたのです。
山崎氏は、A・B各社方式の長所と短所、DAブラックホールの長所と短所を、非常に紳士的に比較と説明をされ、さらに当社のコールセンターの立場にとって、オペレーション上どちらが都合がよいかまで踏み込み、
『微妙なところではあるが、当社の場合は、Aさんの総ざらい方式が有益である』
と結論づけました。

 山崎氏は特許収入・イニシャルフィーなどのインセンティブを眼前にしているのに、自身ではなく他社や我々の利益を客観的な立場で優先しました。
この姿勢に 私も含め一同は深く感銘を受けました。
(この会議で山崎氏が語られた それぞれの製品の有利な点・不利な点、そして氏の考える製品哲学については、いずれ別項で述べたいと思います)

 それから約2ヵ月後、DAブラックホールの採用を見送ることが正式に決まり、その連絡をするのが私の役目となりました。
その時点で、山崎氏の属していた本社秘密部隊は解散して、山崎氏は東京都練馬区光ヶ丘の自社研究所に戻られてました。

 私がそこを訪ねて形式上の結果報告を行い、お詫びを申し上げたところ、山崎氏は
『商法の規定を遵守したまでだ』
とあっさりおっしゃられました。
(しびれました。)
 こういった経緯から、私の山崎氏を見る目がすっかり変わり、「せめて1本だけ 買わせてください」と DAブラックホールを譲っていただきました。
(直販で買ったのは 私で2人目だそうです)

長くなりましたが、これが私と DAブラックホールの出会いです。

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